労働CSRとは

企業の社会的責任と労働

CSRとは「Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)」の略称です。日本では、CSRというと寄付や慈善活動といったフィランソロピー的な取り組みがイメージされることも多いことから、サステナビリティ経営やESG投資といった概念が広がる中で「CSRはすでに時代遅れではないか」といった声も聞かれるようになりました。しかし、本来のCSRは、そのような社会貢献活動にとどまるものではありません。

企業は、社会という基盤の上に成り立っており、その構成員として多様な責任を担っています。こうした企業の社会的責任は、今日のサステナビリティ経営やESGの潮流の中でも、その意義を失うどころか、むしろ重要性を増していると言えるでしょう。

企業を含む組織の社会的責任(SR)を定めた国際規格ISO26000では、7つの中核主題の1つとして「労働慣行」が掲げられています。また、「ビジネスと人権」の文脈においても、サプライチェーン全体にわたる人権尊重が企業に求められていますが、企業にとって最も身近なステークホルダーである従業員との関係性をどのように築いていくかは、極めて重要な課題です。

一人ひとりがいきいきと働ける職場環境を整備し、公正な労働慣行を実現することは、企業が果たすべき社会的責任の中核を成しています。「労働CSR」とは、その責任を具体的に実践する取り組みに他なりません。

(出所:ISO, Social responsibility: 7 core subjectsより作成)

労働CSRの意義と範囲

労働分野におけるCSRの意義や取り組みの方向性については、厚生労働省が2008年に公表した「労働に関するCSR推進研究会報告書」において詳述されています。

記載内容の多くは、近年注目されている人的資本経営の考え方とも親和性が高く、現在においても有効な示唆を含んでいます。

同報告書では、労働CSRの意義について、次のように説明されています。

  • 置き換えることのできない従業員について、その働き方に十分な配慮を払い、かけがえのない個性や能力を活かせるようにしていくことは、企業にとって本来的な責務であると言える。また、従業員等に責任ある行動を積極的にとっている企業が市場において投資家、消費者や求職者等から高い評価を受けるようにしていくことは、社会的にも有益である。こうした観点から、労働についてCSRの観点から検討することが重要 である。

  • 労働問題については、これまでも労使の対話を通じて解決が図られており、今後とも労使協議を通じた枠組みが問題解決の基本となることに変わりはない。一方で、個別企業の問題が社会全体の課題と深く関わっている場合などには、様々なステークホルダーとの対話と協働を通じて解決を図るCSRの取組が有効であると考えられる。

  • CSRの中でも、労働分野におけるCSRへの取組は、従業員の企業に対する満足度、信頼度を高めることにより、労働モラルを引き上げ、優秀な従業員の定着や就業意欲の向上に資するものである。また、従業員の創意工夫・能力発揮を促し、新製品・新サービスの開発、技術革新などによる労働生産性の向上につながるといった効果が期待できる。

(出所:厚生労働省公表資料 労働に関するCSR推進研究会「労働に関するCSR推進研究会報告書」(2008年)より作成)

ディーセント・ワークの実現

労働CSRの取り組みを進めていく上で、重要な指針となる概念の1つが「ディーセント・ワーク(Decent Work)」です。
これはILO(国際労働機関)の活動の主目的と位置づけられており、「働きがいのある人間らしい仕事」、すなわち「自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、全ての人のための生産的な仕事」を意味します。

  • 仕事の創出

    必要な技能を身につけ、働いて生計が立てられるように、国や企業が仕事を作り出すことを支援

  • 社会的保護の拡充

    安全で健康的に働ける職場を確保し、生産性も向上するような環境の整備。社会保障の充実

  • 社会対話の推進

    職場での問題や紛争を平和的に解決できるように、政・労・使の話し合いの促進

  • 仕事における権利の保障

    不利な立場に置かれて働く人々をなくすため、労働者の権利の保障、尊重

(出所:ILO Webサイト「ディーセント・ワーク」より)

ディーセント・ワークは、SDGs(持続可能な開発目標)の目標8「働きがいも経済成長も」にも明記されているほか、「ビジネスと人権」の実践においても極めて重要な概念です。
とりわけ、働き方や雇用形態の多様化が進む現代の労働環境において、すべての労働者にとってのディーセント・ワークを実現していくことは、喫緊の社会課題となっています。

当社では、労働CSRの視点から、企業がディーセント・ワークの実現に向けて取り組むための労働環境整備を支援しています。
国内法および国際的な規範に精通したコンサルタントが、実効性ある施策の策定・運用をサポートいたします。

コンサルティングや各種お問い合わせは
こちらからお気軽にご相談ください。

© 2025 Workers’ Rights Consulting CO., Ltd.