ビジネスと人権とは

ビジネスと人権に関する指導原則

The UN Guiding Principles on Business and Human Rights

戦後の国際社会の中では、人びとの人権を保護する役割を担う主な行動主体(アクター)は「国家」であると考えられていました。しかし、企業活動が国境を越えてグローバルに拡大していくにつれ、「企業」が人権に及ぼす影響が社会問題として注目されるようになってきました。

そのような時代背景の中で、OECD多国籍企業行動指針(1976年)やILO多国籍企業宣言(1977年)等、多国籍企業に期待される「責任ある行動」を示した国際文書が策定されてきましたが、特に「ビジネスと人権」の領域において企業に大きな影響力を与えることとなった文書が、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(指導原則)です。

指導原則は、2011年に国連人権理事会で支持された国際文書であり、下記の3つの柱で構成されています。

  • 人権を保護する国家の義務
  • 人権を尊重する企業の責任
  • 救済へのアクセス確保

指導原則は、法的拘束力のある規範ではありませんが、様々なステークホルダーとの広範な話し合いの成果を取り入れたことで、国際社会において非常に高い正当性を獲得しており、今や「ビジネスと人権」の取り組みを進めていく上での「教科書」として認識されています。

ビジネスと人権に関する指導原則の画像

(出所:国連ビジネスと人権に関する指導原則より作成)

企業に求められる人権尊重の責任

The Corporate Responsibility to Respect Human Rights

指導原則において企業に求められる人権尊重の責任は、いわゆる法令遵守の責任とは異なるものです。
「ビジネスと人権」の領域において法令を遵守することは、必要条件ではありますが、十分条件ではありません。

人権尊重の責任範囲

企業は、自社が雇用している労働者に対して、労働契約等に基づく様々な責任を負っています。
それらは、労働基準法をはじめとする法律上の要請であり、「ビジネスと人権」の領域においても基礎となる企業の責任といえますが、指導原則の考え方のもとでは、企業はより広範な人権尊重の責任を負っているとされています。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が発行している人権を尊重する企業の責任に関する解釈ガイド(The Corporate Responsibility to Respect Human Rights: An Interpretive Guide)」では、指導原則に基づく企業の責任を、3つの類型に分類しています。

  • 引き起こす

    企業が自社の活動を通じて、従業員や地域住民などに人権に関する負の影響を直接的に引き起こす場合です。たとえば、自社の労働者にヘルメットなどの保護具を提供せず危険な作業をさせるケースなどが該当します。

  • 助長する

    企業が自らの活動を通じて、人権への負の影響を助長してしまう場合です。たとえば、納期直前に仕様変更を告げた結果、取引先の労働者に過重労働を強いることになるケースが該当します。意図せずとも、企業活動が人権侵害の一因となることがあります。

  • 取引でつながっている

    企業が人権への負の影響を直接「引き起こして」おらず、「助長」もしていない場合でも、自社の製品やサービスを通じて人権への負の影響と「取引でつながっている」場合が該当します。たとえば、契約に反してサプライヤーが児童労働者に業務を再委託するケースなどです。このような場合、企業には直接是正する責任は負わないとされていますが、取引関係を通じて影響力を行使し、改善を促す責任があります。

(出所:OHCHR, THE CORPORATE RESPONSIBILITY TO RESPECT HUMAN RIGHTS: An Interpretive Guide, p.16 (2012)より作成))

国際的に認められた人権

指導原則では、すべての企業に対して「国際的に認められた人権」を尊重することを求めています。

ここで、「国際的に認められた人権」とは、①国際人権章典で表明された人権と、 ②国際労働機関(ILO)がILO宣言で掲げている労働者の基本的権利の2つを最低限、含むものであるとされています。 国際人権章典とは、世界人権宣言と、これを条約化した2つの国際人権規約を指すものです。

また、ILO宣言で挙げられた労働者の基本的権利とは、「結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認」「あらゆる形態の強制労働の禁止」「児童労働の実効的な廃止」「雇用及び職業における差別の排除」「安全で健康的な労働環境」の5つを指し、ILO中核的労働基準とも呼ばれます。指導原則によれば、企業は、どこでビジネスを行う場合でも、最低限、これらの「国際的に認められた人権」を尊重する責任を負うとされています。

そのため、企業は自社のサプライチェーンを俯瞰し、ビジネスに関連する人権課題を特定した上で、これらに対処する必要があるとされているのです。

国際人権章典の世界人権宣言とILO中核的労働基準

具体的な3つのアクション

指導原則の第2の柱である「人権を尊重する企業の責任」の中では、企業に対して3つのアクションが求められています。
企業が人権尊重の責任を果たすためには、この図で示した一連の取り組みを継続して行っていくことが重要です。

  • 人権方針の策定

    人権を尊重する責任を果たすという方針によるコミットメント

  • 人権デュー・ディリジェンス(人権DD)の実施

    人権への影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかについて責任を持つという人権デュー・ディリジェンス・プロセス

  • 救済へのアクセスの確保

    企業が引き起こし、または助長する人権への負の影響からの是正を可能とするプロセス

人絹方針の策定 救済へのアクセス確保イメージ

(出所:国連「ビジネスと人権に関する指導原則」OECD「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」より作成)

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